NikeとMicrosoftの本社オフィスの価値と意味について

 ナイキが、ワールドキャンパスの建物に、エンドーサーの名前をつける理由は、歴史性のない建物に意味付与を行い、そこを特別な場所=プロパガンダの空間にすることで社員のモラールを高めるためである。(ナイキのCFは、アドバタイジングというよりプロパガンダだと思う。)  フィル・ナイトのポリシーは「誰もがアスリート」だということだ。ナイキの本社には陸上トラックや体育館があって、社員が頻繁に利用するという。また、建物にエンドーサーの名前をつけることで、エンドーサーの存在を身近に感じたり、社員自身がアスリートでありナイキの熱狂的ユーザーである、という考えが生まれ、社員がトポフィリアをもちモラールや結束が高まる。それは、社員に対するプロパガンダやブランド・コミュニケーションだと言える。  マイクロソフトも、同じような素晴らしい本社オフィスを持っている。そこは広大な敷地に緑があふれ、マウス型の車が走り、24時間自由に仕事に打ち込め、社員全員に個室が与えられ自分のオフィスの飾り付けは自由で、無料でソフトドリンクの自販機が設置されていて、家族を招いて食事したり社員同士でスポーツをしたりバンド活動をしたりリフレッシュすることもできる。社員達は仕事で成果を上げればほとんど何をしても自由で高額の収入を得ることができる。そこは「天才たちのテーマパーク」と言われている。ビル・ゲイツはそこを大学の自由活発な雰囲気になぞらえて「キャンパス」と呼んでいて、青年時代に寝食を忘れてコーラを飲みながら仲間とひたすらプログラミングに打ち込んだビル・ゲイツのライフスタイルとマイクロソフトの社風を反映させた場所となっている。ナイキのワールドキャンパスもナイトのポリシーと社風を反映させたテーマパークなのではないだろうか?  リスクと問題点は、まず、エンドーサーとなるスポーツ選手がO.J.シンプソンやコービー・ブライアント、アレン・アイバーソンのように問題を起こしたり、前園真聖やロマーリオのようにプレーに精彩を欠いてすっかり威光を失ってしまった場合に、テーマパークであるがために名前を付けたビルが陳腐なものになって、社員のモラールの低下を招いてしまうかもしれないことである。  次に、1996年にナイキの下請け会社だったインドネシアの靴製造企業が子供を雇用し、労働搾取を行ったとして問題になったことがあった。その時、市民団体はこれに抗議しナイキ本社に押し寄せ、「人権蹂躙国からの輸入を中断せよ」とデモ行為を繰り広げたことがあった。そういう場合に、ナイキの本社がプロパガンダ空間やテーマパークであるからこそ、負のラベリングがなされた時に、ナイキのブランド・イメージが修復不可能になることも考えられる。

関連記事

Nike〜スピリットとしての企業

Nikeから考えるブランド・アイデンティティについての考察

NikeとAppleのトレードマークについて