音楽レヴュー|久石譲のピアノ作品

Piano Stories(NEC Avenue / IXIA, 1988)

「Piano Stories」は、久石譲のキャリア初のピアノ・ソロ・アルバム。

1曲目の「Prologue – A Summer’s Day」とラストの「Epilogue – A Summer’s Day」は、アルバムの序曲とエンディングのためのオリジナル短編曲で、ピアノとシンセサイザーのパッド伴奏で構成されている。

曲の半分は、彼が映画やアニメのサウンドトラック用に作曲した曲をピアノ・ソロでカバーしたものだ。

彼の情熱的だが整然としたピアノ・プレイによって、曲はよりシリアスで壮大に、そしてセンチメンタルでメランコリックになっていく。

「となりのトトロ」の主題歌「The Wind Forest」は、オリエンタルなテイストのセンチメンタルな曲で、印象的なテーマリフがある。ピアノ・ソロのアレンジとプレイがより印象的で美しい。

トラック7から9の「Dreamy Child」、「Green Requiem」、「The Twilight Shore」は、非常に意義深く壮大で、またエレガントな曲だ。

坂本龍一と比較すると、久石の作曲と演奏は、よりクラシック的でロマンティック、メランコリックでプレイ面で技巧的である。
そして、久石の作曲には、スペイン音楽、イタリア音楽、ラテン音楽的なメランコリックで悲愴な味わいがある。

素晴らしいピアノ・ソロ・アルバムである。

Piano Stories II – The Wind of Life(ポリドール・レコード、1996)

Nostalgia – Piano Stories III(ポリドール・レコード、1998)

「Nostalgia – Piano Stories III」は「Piano Stories II」に続き、宮崎駿や北野武の映画のサウンドトラック、コマーシャルやイベントのために作曲した曲をピアノとストリングスのオーケストラでカバーしたアルバム。また、このアルバムのためのオリジナル曲やピアノ・ソロ曲もある。そして、このアルバムの特徴はイタリアン・メランコリックなムードである。

「Cinema Nostalgia」は、クラシカルでイタリアン・テイストのセンチメンタルで重要な曲で、ダイナミックなストリングス・アレンジが施されている。

「Il Porco Rosso」は宮崎駿監督の映画「紅の豚」のテーマ。イタリアンテイストでメランコリックな曲。後半はジャズのようなトランペットとドラムが続く。

「太陽がいっぱい」はオリジナル曲で、ニーノ・ロータが作曲した映画「太陽がいっぱい」のテーマへのオマージュ。久石譲のメランコリックで情熱的なスパニッシュ、あるいはイタリアン・テイストの曲で、ドラムス、コントラバス、アコーディオンがダイナミックなポップ・スタイルを象徴している。

「La Pioggia」は、内省的で優しく美しい曲。ストリングスの伴奏が久石のピアノ・ソロを引き立てる。

ENCORE(ポリドール・レコード、2002年)

「ENCORE」は、「Piano Stories」(1988)以来2枚目のフル・ピアノ・ソロ・アルバムである。ほとんどの曲が宮崎駿や北野武の映画のサウンドトラックのカバー曲である。

「Summer」は北野武監督作品「菊次郎の夏」のテーマ。チャーミングで爽やかなピアノ曲。

「Ballade」は北野武監督作品「BROTHER」の挿入歌。久石譲らしいメランコリックで哀愁のある壮大な曲。アレンジは巧みで力強く、ピアノは技巧的で情熱的だ。この曲はタイトルと違いバラードではないが、バラードとしての熱い愛を感じた。

「Silencio de Parc Guell」は、アルバム「I Am」に収録されているオリジナル曲で、優美でメランコリックなイタリアン・テイストの曲。

「HANA-BI」は北野監督の映画「HANA-BI」のテーマ。久石譲のダイナミックなピアノの演奏での、久石を象徴するテイストのメランコリック・バラードである。

「Friends」は「ピアノ・ストーリーズ II」の収録曲で、爽やかで明るく、また哀愁漂う曲。

FREEDOM: Piano Stories 4(ユニバーサル・ミュージック・ジャパン、2005)

「Piano Stories II – The Wind of Life」、「Nostalgia – Piano Stories III」に続く、「FREEDOM: FREEDOM: Piano Stories 4」もまた、ピアノとストリングスのアンサンブルといくつかの楽器によるカバーアルバム。

「人生のメリーゴーランド」は、イタリアンテイストのメランコリックでシリアスな曲を、ピアノとストリングスのコンビネーションとレスポンスの良いピアノ協奏曲風にアレンジした。

「Ikaros」はキュートで爽やかな曲で、アレンジも良い。

「Fragile Dream」は、無気力から情熱的な曲へと変化する美しい曲。

「Oriental Wind」は壮大でダイナミックなオリエンタル・テイストの曲。

「Lost Sheep On the Bed」は、アルペジオを基調とした少しメランコリックなピアノ・ソロ曲。

「Construction」はコンテンポラリーでメランコリックなスパニッシュまたはラテン・テイストの曲で、ストリングスのアレンジがエキサイティングだ。

このアルバムのアレンジは、ロマン派やモダニズム音楽のピアノ協奏曲のように、より洗練され、複雑で壮大かつダイナミックになっている。

Another Piano Stories – The End of the World (Universal Music / A&M, 2008)

「Another Piano Stories – The End of the World」もまた、久石譲作品のピアノ&オーケストラ・セルフ・カヴァー・アルバムである。

「Woman」は久石を象徴するイタリアン・メランコリックなムードの曲で、ダイナミックなオーケストラ・アレンジで演奏されている。ロマン派音楽とイージー・リスニングの要素を併せ持つ。

「Love Theme of Taewangsashingi」もまた、センチメンタルなテーマをより壮大にした彼の代表的なテイストの曲である。

「Les Aventuriers」は「Piano Story II」に収録されている曲で、彼は再録音した。このバージョンはテンポが速く、より洗練され、ダイナミックで情熱的である。

「旅立ちのテーマ」は、非常に複雑なオーケストラ・アレンジが施された、爽やかで明るくダイナミックな曲である。

「The End of the World I – IV」は、ミニマル・ミュージック、ジャズ、アヴァンギャルド・ミュージックの要素を取り入れたロマンティックまたはコンテンポラリー・スタイルのオーケストラ組曲。

「I’d rather be a Shellfish」は、イタリアン・メランコリックで内省的なムードのピアノ・ソロ曲。

タイトルとは裏腹に、このアルバムはオーケストラをフィーチャーしている。ロマン派、モダニズム、現代音楽、あるいはイージー・リスニングのオーケストラ曲のような、洗練され、磨き上げらた、ダイナミックなアレンジと演奏である。

リソースとリンク

Joe Hisaishi (official site)

Universal Music Japan – Joe Hisaishi

Wikipedia (JP)

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音楽レヴュー|坂本龍一のサウンドトラック作品

Merry Chiristma Mr. Lawrence(ヴァージン、1983年)

大島渚監督の同名映画のサウンドトラック。

「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス」は坂本龍一の代表曲であり、最も有名な曲であるが、彼らしくユニークで特殊な作曲でもある。サウンドはフェアライトCMI、シンセサイザー、ストリングス・オーケストラで構成されている。象徴的なテーマはCMIによるワイングラスのサンプルで演奏される。間奏からストリングス・オーケストラが続き、テーマに合わせて伴奏し、演奏はクライマックスを迎えて幕を閉じる。

「種と蒔く人」は印象的でユニークな曲だ。マリンバのサンプルと弦楽器による奇妙なパーカッシブなリフから始まる。そして間奏ではキーが変わり、シンセサイザーのパッドとストリングスが短い音色のパッセージを奏でる。最後は再びキーが変わり、ストリングスとシンセサイザーが奏でるオリエンタルで壮大なテイストのテーマが印象的だ。

「ファーザー・クリスマス」は「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス」のヴァリエーションで、テーマがフィーチャーされ、シンセサイザーのパッドが曖昧な和音を添える。

モダンでありながらクラシック、東洋と西洋のミックススタイルがユニークで洗練されたサウンドトラック。シンフォニー、室内楽、ミニマル・ミュージック、ガムランの要素も含まれている。英語とキリスト教の伝統的な曲もある。

御法度(ワーナーミュージック・ジャパン、1999年)

大島渚監督の映画のサウンドトラック。監督は大島渚、俳優は北野武、音楽は坂本龍一という、「メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス」と同じ組み合わせで作られた映画である。

「オープニング・テーマ」は、坂本龍一を象徴するテーマで、ヴァイオリンとチェロ、ピアノで奏でられ、クロックノイズのサンプルのリズムとシンセサイザーのパッドの和音で構成されている。テンションが高く、静かなムードが印象的な曲だ。このアルバムのいくつかの曲は、このテーマのバリエーションである。

「Taboo」と「Gate」は、エレクトロニクスのパーカッションとノイズで構成されたアブストラクトなトラック。

「Suggestions」はミニマルで実験的なトラックで、ガムランやアフリカの伝統音楽を連想させる。

「Murder」は、日本の打楽器、鈴、尺八、コントラバスを使った断片的なコラージュ・トラック。

「Supper」はアフリカのエスニック・スタイルのアカペラ。

「Funeral」は、アンビエントのようなシンセサイザーのパッド・コードとソロによるベル楽器のトラック。

「Prostitute」は、ディレイ変調された太鼓、小鉄、バスドラムによる日本の伝統音楽のスタイルである雅楽。

「Ugetsu」はテーマのバリエーション。電子パルスのループとシンセサイザーのパッド・コードとソロが強調されている。

「Killing」は、フラグメンタルなピアノ、弦楽器のトレモロ、コテキ、バスドラムが印象的な、とても恐ろしく鋭いムードの曲。

このアルバムは挑戦的でユニークなサウンドトラックだ。ピアノや弦楽器などの西洋の楽器、邦楽の楽器、シンセサイザーやサンプラーなどの電子楽器、洋楽と邦楽の作曲法、そして現代の電子音楽制作がミックスされており、日本のテイストも感じられる。映画は幕末、維新期の事柄や事件を描いている。また、このサウンドトラックは非文化的なムードや混乱状態がある。だからこのサウンドトラックは、革命の時代、西洋化の時代の混乱と事情を描いている。そして、この音楽は、国家と文化の分離、人類共通の苦しみを超えていくものを目指している。

L.O.L.(WEAジャパン、2000年)

「L.O.L. (Lack of Love)」は、セガ・ドリームキャストのアドベンチャーゲームソフトのサウンドトラックアルバム。また、このゲームは坂本氏がプロデュースしており、坂本氏がコンセプト作りや内容の一部をディレクションしている。ゲームのコンセプトは戦わない、争わないゲーム、と進化である。

「オープニング・テーマ」は、「スウィート・リベンジ」や「アモーレ」のような坂本を象徴する壮大な曲で、素晴らしいテーマが印象的であり、ピアノとシンセサイザーのパッドで構成さえれる。テーマ・パートは「日本サッカーの歌(Japanese Soccer Anthem)」の第2テーマ・パートと同じだろう。

「Artificial Paradise」は、坂本特有のパッド・コードとマリンバのような音色のシンセサイザー・シーケンスによる、ストレートだが洗練されたテクノ・トラック。

「Transformation」はオルゴールのサンプルによるシンプルでミジメな構成。

「Experiment」は、アンビエントのような精悍で慟哭を連想させるトラックで、シンセサイザーのパッドとストリングスで作られている。

「Decision」はロック・ドラムのサンプル・ループにパッドを重ねた勇壮な曲。

「Storm」は、コンピューター信号のようなシーケンス(クラフトワークの “Computer World “の “Pocket Calculator “や “Home Komputer “に似ている)を持つテクノまたはトランス・トラック。

「エンディング・テーマ」は「オープニング・テーマ」のオルタナティヴ・アレンジ。テンポは遅く、パッドとストリングスの音が強調され、ダイナミックで、全体的なムードがより荘厳になっている。

ゲームのサウンドトラックでありながら、坂本の洗練された素晴らしい音楽が堪能できる。

Minha Vida Como Um Filme “my life as a film”(ワーナーミュージック・ジャパン、2002年)

「Minha Vida Como Um Filme “my life as a film”」は、「デリダ」と「アレクセイと泉」という2つの映画のサウンドトラックのコンピレーションである。

「デリダ」はフランスの哲学者ジャック・デリダを主人公にした映画。彼の講義、インタビュー、プライベートショット、そしてデリダによる彼自身のインタビューの分析がコラージュされている。

「デリダ」のパートは22の断片的なトラックから構成されている。

いくつかのトラックは、ピアノのハマーノイズ、ピアノの弦を弾く音、ピアノのボディを叩く音、その他のピアノのノイズで構成されている。

また、第2ウィーン楽派やジョン・ケージ、ジャズのような断片的なピアノの即興演奏もある。鈴の楽器とピアノのノイズのコラージュ、民族的な鈴、撥、打楽器の即興、最小限のピアノのバッキングとモチーフの繰り返しのトラック、環境ノイズと電子ノイズの実験的なコラージュ、即興的なシンセサイザーのソロ曲、シンセサイザーのパッドによる神聖な合唱のような歌。

各トラックは映画の内容とは直接つながっていない。各トラックは断片的で、全体的には、ポストモダニズム的なコラージュである。このサウンドトラック・アルバムは、坂本自身にとっての音楽とサウンド・プロダクションによる、ジャク・デリダの「脱構築」としての実験であるに違いない。

「アレクセイと春/オープニング・テーマ」は、坂本を象徴するスタイルの曲のひとつだ。曖昧で優しいシンセサイザーのパッドコードとピアノのメロディー。

「ガムランやアフリカの民族音楽のようなウッドベル楽器の曲。

「エコー・オブ・ザ・フォレスト」は美しいソロ・パッド・コード曲。

星になった少年〜Shining Boy & Little Randy(ワーナーミュージック・ジャパン、2005)

「星になった少年(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)」は、日本的、アジア的、そしてクラシック的なテイストが素晴らしい、坂本監督の洗練された質の高いサウンドトラックである。

映画のテーマ「Smile」は、フルートとシンセサイザーのパッドが奏でるピュアでキュート、そしてシリアスな楽曲。いくつかの曲はこの曲のバリエーションだ。

「Adieu」はピアノのバッキングのみで、坂本の素晴らしいハーモニーが聴ける。

「Flying for Thailand」は、このテーマの東南アジア・テイストのヴァリエーション。

「Tears of Fah」は、スティーブ・ライヒやフィリップ・グラスのような、弦楽器とピアノによるシンプルでミニマルな曲。

「Escape」は、スティーブ・ライヒのようなアジアやガムラン・テイストのミニマルな曲で、エスニックな木製のマレット楽器が使われている。

「Oracle of White Elephant」は、シンセサイザーのパッドとベル楽器による実験的なアブストラクト・ドローンアンビエントトラック。

「Adventure」はエスニックなウッドマレットのアルペジオと恐ろしげなウッドストリングスが奏でるエスニックなミュージカル・スタイルの曲でもある。

「Reunion」は、エドワード・エルガーの 「威風堂々」を連想させる明るい曲。

「Date」は、ギターのアルペジオ・バッキング、エレクトリック・ピアノ、ガムランのメロディーで構成されたポップで美しく繊細な曲。

「Stepfather」はテーマの変奏曲で、シリアスなピアノ・ソロ・バージョン。

「Elephant Show」は、ハーモニカのソロをフィーチャーした、坂本には珍しい愉快でユーモラスな曲だ。

「Affirming 」はオーケストラのための壮大なテーマのヴァリエーション。

坂本のユニークで洗練されたスタイルとテクニックが光る良質のサウンドトラックだ。

トニー滝谷(コンモンズ、2007年)

「トニー滝谷」は、村上春樹の短編小説を原作とした市川準監督の映画のサウンドトラック。物語は、孤独で優秀で地味な男の人生を描いている。

ストーリーに沿って、このサウンドトラックはミニマルなピアノ・ソロ曲で構成されている。主な曲は「DNA」と「Solitude」とその変奏曲。坂本はテーマやモチーフを用意し、音のない映画を見ながら曲を録音した。

「Solitude」は坂本龍一を象徴するスタイルの曲だが、フィリップ・グラスやスティーブ・ライヒのようなミニマル・ミュージックの要素も含まれている。左手のアルペジオを基調とした曲で、印象的な哀愁のテーマが繰り返し浮かび上がる。トニー滝谷の人柄、人生、そしてこの映画のテーマ全体を表現している。

「DNA」はミニマルなピアノのバッキング曲で、コードとハーモニーの構成には坂本を象徴する洗練された響きがある。

「Fotografia#1」と「#2」は断片的で明るいピアノ曲。

シンプルでちょっと実験的なピアノ・ソロ・アルバム。

レヴェナント:蘇えりし者(ミラノ・レコード、2016年)

「レヴェナント:蘇えりし者」のサウンドトラックは、ストリングス・アンサンブルとシンセパッドで構成され、今日のアンビエントやドローン音楽の影響を受けている。Alva Noto(カールスチン・ニコライ)やブライス・デスナーとのコラボレーション曲もある。

「Carrying Glass」は、ノイズ、ストリングス、シンセサイザー・パッドで構成された曖昧で印象的な曲。

「Killing Hawk」は、大胆なシンセ・パッドをベースに、鋭いハイ・トーンのシンセ・パッドとその反射音、ストリングスのコード・ヒットで構成された奇妙な曲だ。

「Discovering Buffalo」は、アルヴァ・ノテムによるノイズと坂本によるシンセ、そしてストリングスが織り成す非常に抽象的で美しい曲だ。

「Hell Ensemble」は、ストリングス・アンサンブルのロング・ノート・コードのみのミニマルで重要な曲。

「Church Dream」は、神聖だが悲壮なストリングス・アンサンブルの荘厳な曲。

「Reventant Theme 2」は映画のもう一つのテーマ。アイスランドの作曲家・チェリストのヒルドゥル・ギュンドトティルがテーマとメロディーを演奏し、坂本がシンプルなピアノ・バッキングを弾いている。

「Out of Horse」は、美しいシンセサイザーのパッド・ソロと低音のパッド・コードのアンビエント・トラック。

「Cat and Mouse」は3人のミュージシャンの組み合わせの曲。ノイズのコラージュ、ストリングス・アンサンブル、印象的なパーカッションのミックス。

「レヴェナント・メイン・テーマ」は、ヒルドゥル・グナドッティルのチェロが奏でるテーマで、雰囲気のあるパッドとコーラス・サンプルの伴奏が添えられている。そして最後に断片的なピアノが続く。

「The End」はテーマの壮大かつミニマルなバリエーションで、メイン楽器は弦楽アンサンブル、パッドとノイズが添えられている。

「The Revenant Theme (Alva Noto Rework)」は、アルヴァ・ノトによるテーマのリミックス・ヴァージョン。ストリングス、パッド、ノイズなどの素材を音楽作品として再構築している。

アンビエント、ドローン、コンテンポラリー・クラシック、ポスト・クラシックの要素を含む、印象的で実験的な雰囲気のサウンドトラック。

さよなら、ティラノ(エイベックス・エンタテインメント、2019年)

「さよなら、ティラノ」は、手塚プロダクションによるアニメーション映画のサウンドトラックで、2018年に韓国で公開された韓国、日本、中国の共同制作作品である。

アニメのサウンドトラックにもかかわらず、坂本龍一による洗練された高度な音楽だ。坂本の優れたコードワークやメロディ、彼の象徴的な音色やムードがある。

このアルバムには様々なタイプの曲が収録されている。例えば、「Self Portrait」のような明るくキュートな曲、スティーブ・ライヒやテリー・ライリーのミニマル・ミュージックやガムランに影響を受けた曲、シリアスなオーケストラ作品、大胆不敵で闘争的な曲、アンビエント、ドローン、ジャズの即興演奏のような実験的な作品、バロック音楽やクラシック音楽のような神聖な音楽、アフリカの民族音楽、通常の映画のサウンドトラックに必要な曲などだ。このアルバム全体の雰囲気は、「音楽図鑑」(1984年)に似ていると思う。

アニメのサウンドトラックというだけでなく、フル・ソロ・アルバムに匹敵する非常に優れた、満足のいく音楽アルバムだ。ただ、各曲の尺が1~2分と短いのが残念だが…。

リソースとリンク

site Sakamoto (Official Site)

Official Site on Commmons

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プロフィール

作曲家、ピアニスト、音楽プロデューサー。国立東京芸術大学大学院修士課程修了後、セッション・ミュージシャンとなる。細野晴臣、高橋幸宏と知り合い、細野の提案でイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成。YMOは日本で大成功を収め、世界中に知られるようになった。YMOはクラフトワーク、ディーヴォ、テレックスと並ぶシンセ・ポップ、テクノ・ポップの先駆者だった。作曲家としてのキャリアも同時にスタートし、『メリー・クリスマス Mr.ローレンス』や『ラスト・エンペラー』のサウンドトラックでその名を世界に知らしめた。両作品には俳優としても出演している。

1987年にニューヨークに移住。膨大な数の映画サウンドトラックを作曲し、ソロ作品やコラボレーション作品を数多く手がけた。彼の作品は、ドビュッシーやモーリス・ラヴェルなどの印象派を中心としたクラシック音楽、クロスオーバー、アヴァンギャルド音楽、テクノ・ポップ、ダブ、ミニマル・ミュージック、ニューウェーブ、ジャズ、民族音楽(ガムラン、沖縄民謡、日本、中国、韓国、アフリカの伝統音楽)、ハウス・ミュージック、ヒップホップ、ポップ・ミュージック(J-POP)、アンビエント、ボサノヴァ、エレクトロニカ、ドローンからポスト・クラシック音楽まで、さまざまなジャンル、テイスト、スタイルを持つ。洗練されたクラシカル・メソッドと卓越したメロディー・センスが、それらをミックスして形にしているのが彼の特徴だ。亡くなるまで、常に新しい音楽、永遠の音楽を追求してきた。多くのアートプロジェクト、書籍の出版、政治的なメッセージ、テレビ、ラジオ、雑誌、アートブック、アートボックス、インターネットなど、メディアにおける膨大な活動を行った。

RIP 坂本龍一

電子音楽のパイオニアであり、洗練された作曲家であり、とてもクールでスタイリッシュなミュージシャンであり、ミュージシャンでありながら熱心な読書家であり、広い心を持った人でした。

ソロ・アルバム

千のナイフ(日本コロムビア、1978年)

「千のナイフ」は坂本龍一のソロ・デビュー・アルバムで、1978年に録音・発売された。

一曲目の「千のナイフ」の賛美歌、レゲエ、ハービー・ハンコックの「スピーク・ライク・ア・チャイルド」などに影響を受けている。リード・シンセサイザーによるテーマとメロディーがとてもクールだ。パッド、コード・バッキング、リード・シンセサイザー、エレクトロニック・パーカッションが幾重にも重なるアレンジも見事な仕上がりだ。後半は、日本のトップ・ジャズ・ギタリスト、渡辺香津美の歪んだエレキ・ギターがハードにプレイする。

「Island of Wood」は、実験的なアンビエントまたは環境音楽のトラックだ。シンセサイザーが抽象的なシンセのシーケンス、フレーズ、ノイズによって、自然の具体的な音、動物の鳴き声、環境を模倣している。

「Grasshopper」は、高橋悠治のピアノをフィーチャーした、ユニークでキュートな3拍子と6拍子の曲。坂本によるシンセサイザーとピアノがピアノに寄り添い、交差する。

「Das Neue Japanische Elektronische Volkslied」と「Plastic Bamboo」はスローテンポのアジアンテイストのインスト・シンセ・ポップ。

「The End of Asia」は「Thousand Knives」と同じミドルテンポのシンセ・ポップ・インスト曲。しかし、この曲はよりグルーヴィーで、アレンジもダイナミックで、クロスオーバー・ジャズの要素もある。後半は、ギタリストの渡辺香津美がハード・ロックのような歪みまくったハード・プレイ・ギターを聴かせる。

このアルバムは、イエロー・マジック・オーケストラの原型のひとつである。「千のナイフ」と「The End of Asia」はYMOのライヴ・レパートリーになる。

B-2 UNIT(アルファレコード、1980年)

「B-2 UNIT」は坂本龍一の2枚目のソロアルバム。レコーディングは東京とロンドンで行われた。ロンドンでのレコーディングでは、デニス・ボヴェルがプロデューサーを務めた。

「Differencia」は実験的なノングルービーのドラム・サンプル・ループ・トラック。

「Thatness and Thereness」は、坂本がヴォーカルをとるスローでミステリアスなシンセ・ポップ・ヴォーカル曲。シンセサイザーのシーケンス、ベース、ボーカルで始まる。そしてシンセリード、パッド、ピアノが続く。歌詞は抽象的で、60年代の学生運動で起きた事件のシチュエーションを描いている。

「Participation Mystique」は、スネアドラム、バスドラム、シンセサイザーのリードフレーズが非常に大胆で、そこに女性のヴォイスサンプルが乗るというニューウェーブな曲。

「E-3A」は、ガムランのサンプル・ループとエレクトロニック・パーカッションをフィーチャーした、実験的でアブストラクトなアジアンテイストのトラック。

「Iconic Storage」はシンセサイザーのバッキング、パッド、大胆なベースと電子パーカッションで構成された実験的なエレクトロニック・ミュージック。しかし、洗練されたユニークなハーモニーとコード進行がある。

「Riot in Lagos」はこのアルバムを代表する有名な曲だ。印象的なシンセサイザーのリード・テーマ、大胆なダブ・ベース、エレクトロニック・ドラムをフィーチャーしたシンセ・ポップ、あるいはテクノ・ポップのインストゥルメンタルで、アジア的なテイストもある。この曲はイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)のレパートリーのひとつとなった。

「Not the 6’clock News」は、非常に抽象的で実験的なサウンド・コラージュ・トラック。BBCの6時ニュース、ガムランの鐘、シンセサイザーのパルス、ノイジーなシンセサイザーのシーケンス、インポロヴィゼーショナルなシンセサイザーのソロなど、カットアップされ変調されたボイス・サンプルで構成されている。

「The End of Europe」は「The End of Asia」のアンサーソングかもしれない。ノイジーでアブストラクトな非リズム・トラックは、シンセサイザーのリード、大胆なベース、シンセサイザーやサンプルによるノイズで構成されている。

シンセ・ポップ、ニューウェイヴ、ダブ、実験的電子音楽、サウンド・コラージュの要素を取り入れた 「アンチYMO」アプローチの実験的アルバム。そして、驚くほど最新で、斬新かつクールな音楽でもある。

左うでの夢(アルファ・レコード、1981年)

1981年にリリースされたポップで実験的なニューウェイヴ、シンセ・ポップ・アルバム。デヴィッド・シルヴィアンのバンド、ジャパンやトーキング・ヘッズのようなニュー・ウェイヴのテイストがあり、シンセ・ポップやテクノ・ポップ、ダブ、実験的な電子音楽、コンクリート・ミュージック、アジアの民族音楽の要素もある。

「ぼくのかけら」は実験的なオリエンタル・テイストのインストゥルメンタル・トラック。そして抽象的なシンセサイザーのシーケンスとリード、サックスが続く。

「サルとユキとゴミのこども」は、明るく楽観的で愉快な童謡のようなニューウェイヴ・ヴォーカル曲。

「かちゃくちゃねぇ」は、坂本のヴォーカルによるミステリアスでアブストラクトなシンセ・ポップ。後半はハードなドラム・パートが続き、曲を活性化させる。

「The Garden of Poppies」は実験的で抽象的なエレクトロニック・ミュージック。大胆なスネアドラムのループで始まる。エイドリアン・ベリューのシンセサイザー・リフ、抽象的に歪んだギターのロング・トーン・ストロークとその反映が続く。最後は鋭いギター・ソロが曲を締めくくる。

「Relâché」は、大胆なエレクトロニック・ドラムとファンキーなシンセサイザーをベースにしたインストゥルメンタル・シンセ・ポップ。

「Tell’em to Me」は、ベルやガムランの銅鑼のループをフィーチャーした陰鬱なニューウェーブ・ソング。

「Living in the Dark」は、イギリスのニュー・ウェイヴ・バンド、ジャパンのようなミステリアスなニュー・ウェイヴ・ソング。細野晴臣と高橋幸宏によるシンセのリード・ソロとコーラス・パートが印象的だ。

「Slat Dance」は、電子ドラムとパーカッションで構成されたアブストラクトなエレクトロニック・ミュージック。不協和音シンセサイザーの即興ソロが続く。

「Venezia」は、このアルバムで最も印象的な曲だ。ヴォーカル入りのシンプルで素朴、そしてストレートで美しいニュー・ウェイヴ・ソングだ。そしてそこには、坂本を象徴するハーモニーとコード進行がある。

「サルの家」は実験的なサウンド・コラージュ・トラックだ。グルービーではない電子パーカッションから始まり、猿のうなり声のサンプル、ジャングルの環境音が続く。

音楽図鑑(MIDI、1984年)

「音楽図鑑」は、坂本龍一の4枚目のソロ・アルバムであり、初のフル・グランド・アルバムである。

「Tibetan Dance」は、中国やアジアンテイストをテーマにしたシンセサイザーによるインスト・ポップ。

「ETUDE」は、サックスとトランペットをフィーチャーし、4つのパートでリズムパターンを変化させる、音楽学習用のインスト・ポップ・ソング。

「Paradise Lost」はインストゥルメンタルのエレクトロニック・ミュージック。鈴のサンプルによるアジアンテイストのテーマ、レゲエのようなビート、ピアノとパッドによる洗練されたメロディとコード進行。

「Self Portrait」はクリアで明るく爽やかなインスト・シンセ・ポップ。

「旅の極北」は明るく洗練されたエレクトロニック・ミュージック。繊細なシンセ・パッドのコード伴奏がとても良い。

「M.A.Y. in the Backyard」はユニークでポップなコンテンポラリー・クラシック。ヴィブラフォンとマリンバのアルペジオ・サンプルで始まる。テーマ・パートでは、オーケストラのヒット・サンプルとピアノが鋭く鋭く鳴り響く。スティーブ・ライヒの音楽を連想させるが、ここには坂本のオリジナルな要素がある。

「羽根の林で」は、ガムラン・パターンのような鈴の音が印象的な坂本のヴォーカルが印象的なスロー・ポップス。

また、「森の人」はミステリアスで浮遊感のあるヴォーカル・ポップ。

「A Tribute to N.J.P.」はミニマルな現代クラシック音楽。清水康之のテナーサックスとピアノが奏でるテーマやモチーフが印象的で、非国民的なアジアンテイストもある。

「Replica」は、シンセサイザーのパッドとエレクトロニック・パーカッションによるアブストラクトなトラック。

「Ma Mère l’Oye」は、モーリス・ラヴェルの同名曲のタイトルを引用した坂本独自のスタイルのマザーグース。箏、グロッケンシュピール、ギターのサンプリングが伴う。あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」という歌詞のない子供たちのコーラスがテーマとメロディーを歌う。

「きみについて」は、キュートでファニー、そして上質なヴォーカル・ポップ・ソングだ。坂本のヴォーカルは、矢野顕子の娘、坂本美雨のことを歌っている。

音楽には様々なスタイルがある。フェアライトCMI、シーケンシャル・サーキッツProphet-5、ヤマハDX7など、当時の最新サウンドと坂本美雨の天才的な実力を聴くことができる。

Comica(ワーナーミュージック・ジャパン、2002年)

荘厳なオペラ作品「LIFE」とは対照的に、「Comica」は抽象的で実験的なアンビエント、ドローン、エレクトロニカ・アルバムであり、坂本の象徴的なエレガントで霧のようなシーケンシャル・サーキッツProphet-5、KORG Trinity、あるいはあらゆるシンセサイザーのパッド・トーンが特徴である。

「Dawn」はこのアルバムの中で最も上質で洗練されたトラックで、坂本の象徴的なエレガントなパッド・コードとピアノのフレーズで始まる。何層にも重なるパッド、ダブ・モジュレーションされたコンガ・ヒット、エレクトロニック・サウンド・エフェクト、グロッケンシュピールやビブラフォンのフレーズが続く。

「Day」は、電子音、パーカッシブなノイズ、環境ノイズを伴った、減衰または補強されたコード・パッド・シーケンスで構成されている。曖昧でランダムなピアノの即興演奏が続く。

「Sunset」は、ソフトなキーン・パッドとエレクトロニック・シーケンスがベース。ピアノのコード・バッキングはほとんどない。

「Night」は、変調されたアンビエンス・ノイズ・サンプル、曖昧なパッド、不協和音の即興ピアノ。

「d2」は、曇ったような鋭敏なパッド・コードと、日本の伝統音楽 “雅楽 “を連想させる鈴の音のトラック。

「Radical Fashion」は、エフェクトによって全体が変調されたパッド・コードで構成され、動物のうなり声のようなサウンドになっている。

Elephantism (ワーナーミュージック・ジャパン, 2002)

「エレファンティズム」は、の坂本龍一のソロ・アルバムであり、日本の文化雑誌「ソトコト」のケニア訪問プロジェクトのためのコンセプト・アルバムである。タイトルの “イズム・オブ・エレファント “とは、坂本による造語であり、アフリカの象たちによる平和な暮らしや、共に生きる道を学ぶという意味だろう。

“Embassy”は、パッド・コードと即興的な断片的ピアノによるシンプルなアンビエント・トラック。

“Elephantism”もシンプルなパッドと断片的なピアノを重ねたアンビエント・トラック。

“Elmolo Dance”はアフリカン・ドラムのトラックで、サンプル・ボイスと人々の歌声、ディジュリドゥとシンセ・パッドのコード。

“Great Africa”はアフリカンテイストの80年代風シンセポップで、人々のコーラスが特徴。ファンキーで大胆なシンセサイザーのベースが印象的。

“Serenity”はアフリカの木管楽器とパーカッション、ピアノとパッドの抽象的で静寂なサウンド・コラージュ。

“Masai Dance”は、マサイの人々の歌声のサンプルと、坂本を象徴するピアノとパッドのコラージュ。

“Mpata”は、カリンバのサンプル・シーケンス、即興的な断片的ピアノ、女性の声のサンプル、変調された石のひび割れのノイズで構成されている。

“Elephant Dance”はこのアルバムのメインであり、壮大な作品である。アフリカの撥(ハープ)楽器のバッキングから始まり、滑らかなシンセ・パッドがメロディーを奏でる。そこに攻撃的なシンセサイザーのシーケンスとプラックのシーケンスが乗る。最後はパッドとピアノがフレーズを奏で、曲を締めくくる。

“Elephantism 9″は、鋭いシンセサイザーの反射をベースに、アフリカン・パーカッション・シークエンス、環境音や電子音が続く。

“Masai Children”は、子供たちの歌声、ハンドクラップ、テープノイズをコラージュしたトラック。

タイトルやコンセプトとは裏腹に、このアルバムは繊細で静かで洗練された作品であり、ほとんどリズムのないトラックである。

このアルバムは、アフリカの民族音楽を借りているだけでなく、それを敬意を持って解釈し、デジタル技術と坂本の音楽技法によって再構築したものだ。(しかし、私はどこか坂本のアジア的なテイストも感じる。)

out of noise (commmons, 2009)

“out of noise”は、坂本龍一の18枚目のソロ・スタジオ・アルバム。前作”CHASM”のような坂本らしいポップさはなく、ソロアルバムとしてはシリアスかつ実験的な内容となっている。

1曲目の”hibari”は、シンプルなピアノのフレーズをルーパーやPro ToolsなどのDAWを駆使してコラージュしたもの。

“hiwt”は弦楽四重奏とシンセサイザーのためのミニマルで悲愴な曲。

“still life”は、弦楽四重奏をベースに、断片的な即興ピアノと和楽器の笙を加えた曲。

“firewater”は大胆でノイジーなパッドとその反射がミニマルなトラック、

“disko”、”ice”、”gracier”は、グリーンランドで録音されたサンプルを使った「北極圏三部作」。”disko”はアトモスフェリックな、あるいはパッドをベースにしたトラックにギターのプラックを加えたもの。”ice”は実験的な曲。北極圏の氷が崩れて飛び散る音と断片的なフレーズは、モジュラー・シンセサイザーで作られたものだろう。そして坂本の象徴的なパッド・コードが続き、曲を締めくくる。”gracier”は、水のせせらぎ、深いベースのシンセサイザー、LFO変調されたシンセサイザーのフレーズ、そして氷が砕けたノイズがランダムなリズムを加える。

“to stanford”は、日本の女性ポップ・アーティスト、コトリンゴによるピアノ曲。穏やかで少しメランコリックなピアノ・ソロ曲。

“composition 0919″は、ミニマルなエフェクトをかけたピアノ・コラージュ曲。スティーブ・ライヒの「ピアノ・フェイズ」を思い出す。

このアルバムは、2000年代のエレクトロニカ、アンビエント、ポスト・クラシカルに深く影響を受けている。また、フェネス、アルヴァ・ノト、クリストファー・ウィリッツといったエレクトロニカやアンビエントのアーティストとのコラボレーションの成果でもある。”アウト・オブ・ノイズ “を標榜する彼は、善悪を超えた、音色、音、空間としての音楽とその素材の純粋なアイデアを真剣に、繊細に追求した。このアルバムには、高度に洗練され、磨き上げられた音楽的存在、あるいは何かが確かに存在している。

async (commmons, 2017)

“async”は坂本龍一による19枚目のソロ・スタジオ・アルバムであり、本格的なアルバムとしてはこれが事実上、最後となる。アルバムのコンセプトは「リズムのない音楽」と「永遠に鳴り続ける音色」。そしてこのアルバムは、今日のポスト・クラシカルやドローン・ミュージックから多大な影響を受けている。

“andata”は、J.S.バッハのようなピアノとオルガンのテーマをフィーチャーした悲愴な曲。そしてモジュラー・シンセサイザーとエフェクターによる風の音のようなノイズが幾重にも重なる。

“solari”は、シンセサイザーのパッドがコラールのようなコンポジションを奏でる。

“zure”は、シンセサイザーのバッキング、電子クラーベ、電子ノイズのコラージュで、異なるビートでシンクしている。

“walker”は、シンセサイザー・パッドのコードをベースにしたエンドレスな曲で、砂や草や何かがくっついたようなノイズが入る。

“stakra”はミニマルなシンセのアルペジオ・ループの曲。ミステリアスでメカニカル、そして1980年代の私の子供時代のノスタルジックな感覚がある。

“ubi”は、彼の象徴的なメランコリックなピアノ曲に、エレクトロニック・パーカッション、パッド、ノイズがフィーチャーされている。

タイトル曲の”async”は、ポリリズムのエスニックなパーカッションのコラージュで、BTTB(1998)の”sonata”に似ている。

“life, life”はパッド・コードにエレクトロニック・パーカッション・パターンとナレーションで構成された曲。

“honji”は、日本の伝統楽器である三味線、笙のロングトーン、雨、電子音とその反射の断片的なコラージュである。

“ff”は、シンセサイザーの高音と中音の和音とソロの即興演奏と、ベルのような楽器が奏でるゆったりとしたパターンで構成された曲。

“garden”は、1つか2つのパッドのハーモニーの即興演奏とその反射音とフィルターノイズだけで構成されたミニマルな曲。生命の意志と力を感じる。

このアルバムには、死への恐怖、生きようとする意志、永遠への希求、人間への慈悲、そして平凡な人生へのムードがある。坂本は無神論的な仏教徒だったが、このアルバムにはキリスト教のテイストを感じた。

私はこのアルバムのコンセプトである「リズムのない音楽」が理解できない。彼はニューエイジ・ミュージックとコンテンポラリー・ピアニストのリズム・マスターである。このアルバムからは、彼のリズムへの感性とこだわりを感じた。”async”というコンセプトは、却って、世の中にある様々な要素、素材、物事のシンク(sync)になっていくことなのかもしれない。

12 (commmons, 2023)

「12』は、2023年1月17日にリリースされた坂本龍一のニューアルバム。12曲のシンセサイザー・パッド・ソロ、ピアノ・ソロ、シンセサイザー・パッド、ノイズとピアノの組み合わせで構成されている。2曲を除き、アブストラクトでミニマルな楽曲が即興で演奏されている。20220302 – sarabande “と “20220302 “だけが、彼独特の洗練されたピアノ曲で、エリック・サティ、モーリス・ラヴェル、クロード・ドビュッシーなど、彼の音楽の原点に影響を受けている。

高音も低音もEQでカットされていない。そのため、大胆で、ノイズやクリップ、部屋の反射音などが入っているが、荒々しく、生々しく、生き生きとしている。坂本の息づかい、タッチ、ソウルを聴くことができる。

私はこのアルバムから、世界に人生の足跡を残そうとする坂本の意志を感じ、聴くことができる。

リソースとリンク

site Sakamoto (Official Site)

Official Site on Commmons

Wikipedia (Japanese)

Wikipedia (English)

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